そのため、実務対応としては 「大綱で全体像をつかむ →
「法律の内容が固まった段階で実務対応する」 という進め方が基本になります。
令和8年度税制改正大綱は、中小企業にとって、
「実務負担の軽減」「投資・賃上げの後押し」「将来への備え」 という3つの面で影響が大きい内容です。
とくに、長年変わっていなかった金額基準の見直しや、
インボイス制度の経過措置の変更は、日々の経理業務や経営判断にも直結します。
本記事では、中小企業の経営者さま・経理担当者さまに関係が深いポイントを中心に、
経営の視点と実務の視点の両方から、速報として分かりやすく整理してご案内します。
いっしょに税理士法人としても、みなさまがスムーズに対応できるよう、
必要なオペレーション整理や実務面の準備を進めてまいります。
1. 設備投資・経費処理への影響(金額基準の引き上げ)
物価上昇に対応するため、長年変わらなかった税制上の基準額が見直され、経費計上や償却資産税の負担が軽減されます。
少額減価償却資産の特例拡大(即時償却)
中小企業者が取得した資産について、取得価額の全額を損金算入(即時償却)できる特例の基準額が、
現行の「30万円未満」から 「40万円未満」 に引き上げられます。
・経営者への影響
パソコンや機械工具など、30万円台の備品購入時に節税効果を享受しやすくなり、投資判断のハードルが下がります。
・経理への影響
固定資産管理や償却計算の手間が省ける範囲が広がります。
ただし、常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外となる新たな制限が設けられるため、自社の規模要件の確認が必要です。
固定資産税(償却資産)の免税点引き上げ
償却資産に係る固定資産税の免税点が、現行の150万円から180万円に引き上げられます。
・影響
保有する償却資産が少ない小規模事業者にとっては、
固定資産税の申告義務や納税負担がなくなる可能性があり、資金繰りと事務負担の両面でプラスになります。
2. インボイス制度・消費税実務への影響
インボイス制度の定着に向けた経過措置の変更は、経理担当者にとって最も注意すべき実務変更点です。
「2割特例」終了後の新たな経過措置
インボイス発行事業者となった小規模事業者向けの「2割特例」終了後、
新たに 「売上税額の3割」を納税額とできる経過措置 が2年間に限り設けられます。
・経理への影響
簡易課税制度への移行検討や、新たな税額計算区分の設定が必要になります。
免税事業者からの仕入れに係る経過措置の見直し
免税事業者からの仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置(現在は80%控除)が延長されますが、
控除率は段階的に縮小(令和8年10月から7割、令和10年10月から5割など)され、最終的に令和13年9月末で終了します。
・重要な変更点
1つの免税事業者からの課税仕入れについて、経過措置を適用できる上限額が
「年間1億円」 (現行10億円)に引き下げられます。
・経理への影響
多額の取引がある免税事業者については、上限管理を行う必要が生じ、会計システムや業務フローの確認が不可欠です。
3. 賃上げ・研究開発への支援(赤字企業への配慮)
赤字や業績変動があっても、賃上げや投資を継続する企業を支援する仕組みが強化されます。
賃上げ促進税制(中小企業向け)
大企業向けは見直されますが、中小企業向けについては、人材確保のための「防衛的賃上げ」に配慮し、令和8年度は現行制度が維持されます。
研究開発税制の繰越措置導入
「中小企業技術基盤強化税制」において、新たに3年間の繰越税額控除が導入されます。
・経営者への影響
これまでは赤字で法人税が発生しない年度は税額控除のメリットを受けられませんでしたが、
今後は控除枠を翌期以降(黒字化した年度)に持ち越せるため、
一時的な業績悪化を恐れずに研究開発投資を継続しやすくなります。
4. 事業承継・将来への備え
事業承継税制の期限延長
法人版事業承継税制(特例措置)の計画提出期限が令和9年9月末まで(1年6月延長)、
個人版は令和10年9月末まで(2年6月延長)それぞれ延長されます。
・経営者への影響
申請期限が迫っていた経営者にとっては、後継者選びや計画策定の猶予が生まれました。
ただし、これは時限措置であるため、早めの対応が推奨されています。
5. その他の実務的な変更点
交際費課税の基準
令和6年度改正で飲食費の基準が1人当たり1万円以下に引き上げられましたが、
今回の改正では、将来的な見直し(適用期限に合わせた検討)が示唆されています。
現状維持ですが、今後の動向に注意が必要です。
社会保険料控除の証明書
確定申告等において、小規模企業共済等掛金控除の証明書等の添付に代えて、
明細書の添付で済む措置の対象に、国民年金保険料などが追加されます。
個人の確定申告を行う経営者等の事務負担が軽減されます。
まとめ
今回の中小企業への影響は、「サイズの合わなくなった服を、今の体格に合わせて仕立て直してもらった」 ようなものです。
物価上昇(体の成長)に合わせて、減価償却の基準額や免税点(服のサイズ)が大きく調整されました。
これにより、経営者は窮屈さを感じずに投資活動ができ、経理担当者は煩雑な処理を減らすことができます。
ただし、インボイスなどのルールは引き続き複雑なため、正しい実務対応には注意が必要です。
経営者の方は「決算時の40万円未満の資産投資」や
「保有機器の総額は180万円未満という目安」という点を経営計画に組み込み、
経理担当者の方は「インボイスの新ルール」と「固定資産管理基準の変更」
に向けて会計システムの設定確認を進めることをお勧めします。