●中小企業の法人税特例とその意味
中小企業者などのための法人税率特例は、年間所得が800万円以下である場合に適用される制度です。この制度では、19%の基本税率の低減に加えて、租税特別措置法に基づく15%の税率が適用されます。
この特別なケースでは、年間利益が800万円以下の中小企業は、通常の税率よりも低い税金を支払うことが可能です。例えば、大企業が標準的に23.2%の税金を支払うのに対し、中小企業はたったの15%で済みます。この違いがどれほど大きいかというと、100万円の利益がある場合、大企業は税金として232,000円を支払う必要がありますが、中小企業では150,000円のみで済むのです。
●この制度が制定される背景
税の負担は理想的には公平に分配されるべきですが、中小企業に対する特別な配慮があるのは、日本の企業の総数が約286万社に上り、その中で284万社が中小企業であり、全体の99.2%を占めている現状が背景にあります(図1参照)。
これらの中小企業は、日常生活に欠かせない商品やサービスを提供し、国民生活にとって不可欠な役割を果たしています。
しかし、中小企業は以下のような特有の課題を抱えています:
1 規模の経済を享受できない。
2 人材獲得が困難。
3 資金調達のコストが高い。
これらの理由から、中小企業は大企業に比べて生産性や収益性が低くなりがちで、支援が必要です。
特に、最近は新型コロナウイルスの影響、物価と資源の高騰、労働力不足などの要因で先行きが不透明な状況が続いています。このような状況の中、中小企業支援のためのこの制度の継続が強く望まれています。
●知っておくべき2つの注意点
この優遇措置が永続するとは限らないことを理解しておくことが重要です。
まず、この制度は租税特別措置法に基づいており、この法律は将来的に廃止される可能性があります。したがって、常に最新の情報に注意を払う必要があります。さらに、法人税法は頻繁に改正される傾向にありますが、租税特別措置法はその性質上、時限立法であるため、将来的には終了する可能性があるのです。
二つ目の理由は、中小企業の必要性に疑問を投げかける意見が存在することです。一部の意見では、中小企業を減少させ、大企業を増やすことが国力の向上に寄与するとの議論があります。中小企業は全企業数の99.2%を占めながらも、売上高全体の約43%しか占めていない現状があります(図2参照)。これは、資金力の不足や設備投資、研究開発、教育研修への投資不足により生産性が低いためです。
海外では中小企業の数が減少傾向にあり、これは資本主義社会において大資本が優勢であることが理由です。日本政府も中小企業の再編に向けた政策を推進する可能性があり、中小企業向けの税制優遇措置が廃止されると、中小企業の経営に悪影響を及ぼす可能性があります。
このような背景を踏まえ、日本の中小企業には新しい取り組みに挑戦し、生産性を向上させることが求められています。
●税金を払わないと会社は大きくなれない
税金に関しては、多くの人がなるべく利益を出さないようにする傾向があります。確かに、節税は会社が稼いだお金を保持する上で重要な要素です。しかし、節税にのみ注力して長期的な成長の視点を失うのはリスクが伴います。重要なのは、「税金を支払わなければ、企業の成長は阻害される」ということです。
税金を適切に納めることで、利益が純資産として貸借対照表に反映され、企業の財務状況はより健全になります。これにより、銀行や投資家からの信頼も高まります。短期的には、期末の支出を増やすことで税金を節約することも可能です。しかし、過度に支出すると、結果的に企業の手持ち資金が減少するリスクもあります。つまり、短期的な節税が長期的な成長の障害になる可能性があるのです。
法人税率の特例を受けられる期間内に、しっかりと利益を上げ、長期的な成長と健全な財務状態を目指すことが大切です。
●まとめ
年間利益が800万円以下の中小企業は税制上の特典を受けられますが、これは同時に「支援が必要とされる企業」という評価も意味しています。
この特典に依存せず、より大きな利益を生み出せるビジネスモデルを目指して、企業の成長と発展に努めましょう。